8.16.2014

草間彌生「無限の網」を読む

ああ、草間っちすごい。

最近は現代芸術関係の本をよく読んでいる。
現代的に優れたものを作ろうと思ったらまずアートを知ることだと思うからだ。文学より音楽より、まずアート。アートは直情に「現代的」あるいは「進歩的」たらんと意志しているものだから、現代アートを見ればこの後の世の中がわかる。

ウォール街の証券マンは水玉模様で抹殺だ
裸のウォール街証券マンは水玉模様で抹殺だ

草間彌生の自伝である「無限の網」を読む。

ぼくは草間彌生のことをぜんぜん知らなかった。 最初にテレビ見たときは「Oh, 樹木希林すごい髪の色にしたな」くらいに思っていたのである。芸術家であることを知っても、村上隆と同じように、「水玉の人」くらいの認識だった。

ところが自伝を読んでみると本当にすごい人である。その人生も、考え方も、尋常ではない。

芸術家の生涯は美しいと思う。ぼくはいろいろな偉人の生涯を知るのが好きで調べた時期があった。それは病跡学的な興味からだった。彼女の生涯を見てみると、一級の天才のそれである。裕福な生まれ、精神障害、才能ある天才との交流など。

日本から出たいと思い続けていて、フランス大統領に手紙を送ったら返事が来たり、アメリカの著名な女流画家に手紙を送ったら返事が来たりと、すごい少女時代を送っている。そして戦前に渡米し、そこで成功する。

もちろんただで成功したのではない。彼女は無名であり、貧乏な下積み時代があった。魚の頭をゴミ箱から拾ってきてスープにして食べたときもあった。直近に村上隆の本を読んだのでどうしても比較してしまうのだが、彼もコンビニの廃棄弁当を食べていた。
しかし二人とも、アメリカで成功している。「日本の異端は欧米の評価を受ける。日本の本道は欧米の評価を受けない。現代に通じるこの流れを日本人は意識すべきです」と村上は書いていた。

アートだけではない。彼女の生き生きとした文章にびっくりする。表現は力強く、美しく、豊かである。詩も的確な語彙を選んでいてすばらしい。どうしてこんな文章が上手いんだ。あなたは画家でしょ……と訝りながら読み進めると「画家か小説家か迷った」と書いてあって溜飲が下がった。昔から書いていたのだ。「絵ばかり描いてきたけど、ちょっと書いたらいいものできた」という感じだったら、ぼくはその才能にジェラシーを感じていたと思う。
(ちなみに画家は必ずしも文章が上手ではないことは村上隆が教えてくれた……)
(日本は)美術界を牛耳っている体制が前近代的すぎて、頭の古い人が、心を開放するような若い人のユニークな発想を駄目にしてしまっている。世界の先進国の中で、日本は文学と現代芸術が一番遅れている。
現代芸術は心が開かれないと発展してゆかない。だから、日本という国は現代芸術が育ちにくい土壌で、美術はいまだに外国の植民地状態である。
日本は文学と現代芸術が一番遅れている……。確かにそうかもしれない?最近世界で通用するような作家って、村上春樹くらいしかいないような。

最後に草間はこう書いている。
人生は真実素晴らしいとつくづく思い、身体が震えるほど、芸術の世界は尽きることなく興味があり、私にはこの世界しか希望のわく、生きがいのある場所は他にないのだ。そして、そのためにはいかなる苦労をしても悔いはない。私はそのようにこれまで生きてき、これからもそう生きていく。

ところで草間彌生が売れる前の記述は興味深い。その独創性の原点が伺える。
当時はアクション・ペインティングの洪水で、猫も杓子もそれ行けと、このスタイルに飛びつき、またすごい高値で飛ぶように売れていた。しかし私は、自分自身のみの内側から出た独創的な芸術を創作することが、自分の一生を作家として築いていく上で一番大切なことであると考えてきていたので、彼らとは正反対を志向する絵を発表した。 
フランス画家「ヤヨイ、外を見ろ。ベートーヴェンやモーツァルトの音楽を聴きたくはないか。カントやヘーゲルを読め。偉大な者がいっぱいある。こんな無意味なことを、朝晩、数年もやっているなんて!時間の浪費だ」
しかし、水玉の網の呪縛は私を虜にしてしまったのだ。ピカソでもマチスでも何でもこい。私はこの水玉一つで立ち向かってやる。そう考えていたので、聴く耳を持たなかった。
そう、もはやカントもベートーヴェンもマチスもなかった。彼女にあったのは、「水玉」だけ。この記述に、ぼくは打ち震えた!そりゃ成功するわけだ。何しろ、彼女には、水玉しか、なかった。




ヘッセのこの記述を思い出す。

「進んで十字架にかけられた殉教者は、何人もいたさ。しかしその人たちだって、英雄じゃなかった。解放されてはいなかった。やっぱり、何か自分たちにとってなつかしい、なじみのふかいものを、望んだ。手本をもっていた。理想をもっていたのだ。もう運命だけしか望まない人は、手本も理想ももたない。なにひとつしたしいものも、なぐさめになるようなものも、もってはいないのだよ。そうしてほんとうを言えば、人はこの道を行かなければならないわけさ。」(「デミアン」/ヘッセ)

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