9.13.2014

君は人生を降りたのかと言われたので

田舎に暮らすことを決意したので、それを周囲に宣伝している。なんのことはない、ぼくはまだ迷っているのだ。言うことによって決意を固めたいのである。

ぼくがしようとしているのはいわゆる「Iターン」。縁もゆかりもない土地に赴くのだ。「上京」ではない。京も何もない。みんなになぜそんなことをするのか、と言われるから、端的に金が良いのだ、と答えている。

まあ、仕事とは他人のため、金のためにすることだ。ぼくは経営者の奴隷になろうとしているが、経営者だって社会や顧客の奴隷なのだ。あらゆる労働は隷属である。しかし本当の仕事というものがある。本当の仕事とは、ただ自分のためだけに行うことだ。ぼくが書き物をするときは別に顧客のためだとか、読者のためとか考えることはない。ただ自分が求めるままに書いている。これこそ本当の仕事だ。自分が自分のために行うことが、本当の仕事だ。

それでは田舎勤務はどうなのか、というと残業がほとんどなく、通勤に体力や時間を奪われることがない。仕事自体もハードではない。おそらく、家に帰って「本当の仕事」をするというすばらしい生活ができると思う。

ぼくは田舎に行きます、と言うと君は人生を降りたのかと言われることがある。人生を降りるとはどういうことなのだろう。たしかにぼくは普通でない方向に生きようとしている。同級生たちにぼくのような人間はいないか、とさんざん訪ねたが、「いない」という。田舎に行くと言っても、せいぜい千葉とか、埼玉のような、郊外どまりである。そしてみなそれなりの企業に就職するのだ。

思えば、ぼくはアンパイな人生を歩んできたと思う。ぼくは自分の人生がおよそ困難な道であることを早くから知っていた。神経症は中学二年あたりから発症し、そこからはまともな人生を歩めないことを覚悟した。だからこそ、大して好きでもない学問を勉強し、食いっぱぐれないような大学や学部を選択したのだ。好きだった漫画は書くことを辞めたし、SE(当時は憧れの職業だった)になろうという気もどこかへ行った。

今となってはその選択は有効に働いたと思う。今のところ、破滅的な人生は歩んでいない。ぼくと同じ病気のひとをネットで見かけると、仕事を辞めてニートをしているとか、引きこもりになって高校を中退したという人がいるので、幸運にもなかなか適応できていると言える。

人生を降りるとはどういうことだろうか?都心は確かに引力を持つ。埼玉や千葉に住んでいる人のほとんどが、チャンスさえあれば東京に住みたいと思っているだろう。みなその中心に近づきたいと思う。都心はピラミッドの頂点なのである。同様のピラミッド構造は他にもある。それは会社だ。経営者が頂点で、底辺は平社員である。だれもが昇進を望んでいる。ピラミッドの上に行きたいと思う。

おそらく人生を降りないということは、その都心への志向を、経営者への志向を保ち続けることなのだろう。ぼくが行こうとしている田舎を、「負け組の行くところだ」と言い切った教授もその類の人間だ。それが人生を降りることを意味するのであれば、ぼくは確かに人生を降りたのだろう。しかし、ね。
かれらがよじ登って行くさまを見るがいい。この敏捷な猿どもが!
かれらはおたがいの頭を踏み越えてよじ登りつつ、お互いを泥沼に引きずり落とそうとする。
誰もかれもが王座につこうとする。これがかれらの狂気だ、まるで幸福が王座にあるかのように!だが王座にあるのはしばしば泥にすぎない。また王座がしばしば泥の上に乗っていることもある。
わたしから見れば、かれらはみな狂人であり、よじ登る猿であり、熱にうかされた者である。
かれらの偶像、この冷ややかな怪獣は悪臭を放つ。かれら、この偶像を崇拝する者ことごとく悪臭を放つ。
わが兄弟たちよ。あなた方は、かれらの欲望の口元から出てくる毒気の中で窒息する気なのか?むしろ窓を打ち破って、外へ飛び出すがいい!
悪臭から逃れよ! あらずもがな人間たちが営む偶像礼拝から逃れよ!悪臭から逃れよ! この人身御供から立ち昇る濛気から脱出せよ!
(ツァラトゥストラはかく語りき「新しい偶像」より)

いったいどう生きるのが正しいだろうか?とつねづねぼくは考えるが、その考える時間もまた人生の空費という気がしなくもない。おそらく本当に考えるべきことは生活に関することではないのだ。ぼくが田舎に行こうと、都会に行こうと、それはどうでもいいことだ。本当に生活というものは、支障がそれほどなく、平均的な生活が送れればそれ以上考えるべきではない。よりよい高級車が欲しいとか、マンションをグレードアップしたいとか、そんな愚考に貴重な時間を費やすべきでない。「中庸」とはこういうことである。人生のどうでもいいことは、中庸で済ませ、本当に考えるべき事柄に考えを向けよ。人生は思っているよりはるかに短いのだから。

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