11.01.2016

映画「セッション」は駄作なのか

阿月まりという人物が好きで、そのブログを読んでいたのだが、映画「セッション」がつまらなかった、という意見があり、さらに「こういう映画を良いと思う人は、佐村河内に騙されるタイプ」というような記述があり、個人的に思い入れのある映画なのでなんだかな、と思った(「映画『セッション』とゴーストライター事件」)。

ジャズドラマーを目指す主人公ニーマンに「音楽観」に関する描写がない、だからつまらない、ということだけど、正直いって、プロの音楽家になるためにはまず技術、精確さがすべてであって、「音楽観」なんてへっぽこアマの段階で持つべきではないと思う。

音楽家というのは、まず第一に技術屋であり、いくら崇高な音楽観を持っているとしても、人並みの演奏ができないようであれば「ゴミ」である。テンポがキープできない、ピッチが合わない、それだけで「二流」どころか使い物にならない「ゴミ」なのである。

私もしばらく音楽をやっていたけど、「私はこういう音楽をやりたい」なんて言ってるのは、技術も糞もないカラオケ気分のボーカルくらいなもんで、ろくなものではなかったように思う。黙々と技術を磨く人の方がはるかにまともだし、演奏も感動できる。だいたい、音楽観なんて、演奏に勝手に出てくるものだ。

そういう意味では、私はナマッチョロイ「思想」なんか持っていない、スポ根的な練習に没頭する主人公にたいへん好感が持てた。

映画的につまらない、と言う意見はわかる。ただ私は体裁よく大衆受けを狙ったような映画はそれこそ「つまらない」と思うので、現実的でよいと私は思う。まあ、ドラム叩きすぎて手から大量出血するくだりには笑ったけど。

あと、コンボジャズとビッグバンドの性格の違いが無視されているように思う。

トリオとか、クインテットのような少人数のコンボであれば、音楽性を表現したいという気はわかる。そこがコンボジャズの醍醐味ではある。コンボジャズは繊細な芸術家の領域だと思う。個人が思い思いの演奏をして、他の楽器と共鳴しあい、音楽性を高める。当然コンボでも、音楽として成立するためには一定レベルの技術は要求されるが。

ただ、大人数のオーケストラジャズ、ビッグバンドはほとんどむさくるしい体育会系の集団であり、まったく性格が異なる。もう、ほんとうに、ミスが許されない、軍隊的世界。マーチングに近いかも。作中でも演奏家が監督の言いなり、コマのようになってるけど、あんなもんだと思う。その意味でも、「音楽観」なんてない世界だ。だいたい、演奏家それぞれが「音楽観」なんて持ったらバラバラでしょう。「良い演奏をしたい」のであれば、自分の音楽観を捨てなければならない。それが嫌ならストリートミュージシャンにでもなればよい。ドラムはとくにバンドの心臓部だから、ここがミスればすべてが台無し。だから精確さはこの上なく要求される。

私がこの映画を気に入ったのは、ニーマンとフィッシャーの「狂気的」世界である。きわめて歪な関係だが、妙な均衡をもった関係のもつ、その緊張感にやられてしまった。

フィッシャーはほとんど狂人だし、ニーマンもそれに応じていかれてくるのだが、その二人のいかれっぷりが解消されないまま、イカレタママ終わった。私はそういう映画だから気に入ったのである。ああ、これは体裁を整えた「楽しい物語」ではなく、実体験に基づいた「リアル」なんだな、と。

そもそも、この映画の感想は、「フィッシャーとニーマンが和解してよかった」ではないと思うんだよな。和解してはならなかった。フィッシャーがコテンパンにやっつけられないといけなかった……人殺してるし。でも、ニーマンは狂っているから、音楽にとりつかれているから、悪魔のようなフィッシャーを受け入れた。そこが、憎い演出だったし、私の大好きな描写だった。

この映画はおもしろいです。たぶん、音楽に熱中したことのある人なら楽しくてしかたないと思う。「キキセン(演奏しないけど聞くのは好きな人)」は楽しくないかもしれない。

音楽って、ほとんど技術がすべての世界だ。良い演奏をするのに、思想だの音楽観は不要。まあ私が技術の領域で呻吟しているからそう思うだけかもしれない。よく中国人の英才教育を受けたピアニストに対して、「技術はあるけど、魂はない」という表現をすることがある。「ヘタウマ」という言葉もあるし、そういうのが楽しいこともある。

しかし、音楽はまず技術なのである。というか、芸術ってすべて技術でしょう。アートとテクネーは同一だったわけだし。芸術って、技術が99%だと思う。100%かもしれない。音楽でも、絵画や彫刻でもそうだと思うけど、おそろしく残酷に「技術」「精度」が要求される世界なのだと私は思っている。そういう泥臭い現実を知らずして、「主人公にもっと音楽性を持ってほしかった」というのは、少しお花畑のような気がする。

なにせ何か月も前に観た映画だから、的外れな指摘もあるかもしれない。ただ、映画をあまり見ない私としてはかなり気に入った映画だったので、つらつらと書いてしまった。

なお、作品中の音楽には、別に「すごい」とはあまり思わなかった。映画館で観たらまた感想が違うかもしれないけど、ラストのドラムソロもそこまで好きではない。演出はよかったけど、音楽はあまり。

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